




田んぼに飛来する、貴重な鳥の生息保全を
お米を食べてお手伝い
相変わらず高いお米。新米が出れば収まると言われながら、価格は下がらず5kg4000円から5000円の水準。令和米騒動前の2024年初頭は5kg2000円前後だったことを覚えていますか? 一方で、その値段では米農家はやっていけない、1990年代以前の価格に戻っただけだ、という声も。
いずれにしろ、日本人の主食でありながら、お米のことがよくわからない。でも高騰していることで、改めてその大切さに気づいた人も多いと思います。もっとお米と地元の米農家のこと知りたい。そう考え湘南のお米事情を、農アンバサダーのLioさんに案内してもらいました。

もう忘れかけてますが猛暑だった今年の8月。Lioさんに連れられて、茅ヶ崎市西久保の田んぼを訪れました。青々とした稲は穂が出始めです。
「ここが湘南タゲリ米の田んぼです」
タゲリ? 初めて聞く言葉です。
「タゲリ」というのは、秋から冬に大陸から飛来する渡り鳥。ここの田んぼはそのタゲリを始めとした生き物の生活の場とするための、特別な田んぼ、とLioさんは言います。
冬の田んぼを餌場と寝ぐらにするタゲリはこの時期見られませんが、代わりに水が張られた田には、様々な生き物が。虫はもちろんドジョウやナマズなどの魚も来るそうです。それを目当てにサギなどの鳥も。昔からいる生き物の生育環境を守るためですが、最近近くに出来た高速道路の影響で、タゲリが見られなくなったと、心配の声も。
この田んぼで収穫されたお米が「湘南タゲリ米」。ここに暮らす生き物のために農薬が使えないため、農作業には手間がかかります。地元の自然に配慮した米作りで、価格も通常のお米よりも割高に。その付加価値を理解してくれる人に買ってもらいたいと、「湘南タゲリ米」の販売を行ってきたのが三翠会です。会の前代表であり、自身もタゲリ米を栽培してきた鈴木國臣さん(83歳)を訪ねました。

「茅ヶ崎にはタゲリが多く飛んできていました。特にここ西久保地区の田んぼは有数の飛来地だったんですね。冬に来て田んぼにいるミミズや昆虫を食べ、寝ぐらにもしていたんです」(鈴木さん)。
1990年代中ごろ、減反政策により農家が米作りから離れていった時期。一生懸命作っても米が余る。歳をとって農業も続けられない。さらに景観のいいここに老人ホームを作ろうという動きも重なり、農地を売ってしまおうという声が出始めた時、当時の自治会長さんが「この田んぼは先祖から受け継いだ大切な田んぼだ。それに絶滅危惧種の貴重な鳥も飛んできている」と声をあげ、40、50軒あった当時の米農家のほとんどが売却を思いとどまったそうです。

そして、タゲリの来る田んぼを守ろうと、鈴木さんをはじめとする有志が2000年に自然保護グループ「三翠会」を設立しました。主要メンバーは、自然の風景や生物を描く画家、日本野鳥の会理事、水性生物の専門家など。鈴木さんが唯一の農家だったため、米農家との橋渡し役ととなりました。
「減反政策に対し『田んぼをやめないでくれ』と言うと、『そうは言っても行政の言うことだし、米を作っても売れないし』とくるんで、それじゃあ、ブランド米としてはどうかと。湘南タゲリ米はそうして始まったんです」(鈴木さん)
生産地の田んぼを守るために、「いきものブランド米」が各地で生産されているそうです。「こうのとり米」「トキ米」(新潟)など、鳥類が多いようですが、「どじょう米」(小田原)なんていうのもあるとか。

「湘南タゲリ米」は、「キヌヒカリ」という品種で、作ってくれた農家から、どこよりも高い値段で三翠会が買い上げ、地元のお米屋さんを通して2001年から販売しています。環境を守っているという付加価値を上乗せして、売値は5kg3000円。今見ると「安い!」と感じますが、一般のお米が5kg2000円未満だった当時、「いったい誰が買うんだ」などと言われながら、高くてもタゲリを守るために買ってください、と野鳥の会の会報でも告知、全国から注文が来たそうです。
タゲリ米を作る農家は、当初13軒からスタート。一時期増えて23軒くらいになった時もあったそう。田んぼは、生き物の生育環境を守るために農薬、化学肥料を不使用の方向でしたが、条件をあまり厳しくすると生産自体が難しくなるので、極力減らして栽培ということに。趣旨に賛同した農家の協力のもと生産を続けてきました。現在のタゲリ米生産農家は5軒くらいになってしまったとのこと。
ところで、タゲリの様子は?
「最近では、タゲリ米の田んぼでタゲリが見られなくなってしまいました。車のライトとか、騒音とかで、安心して暮らせないと思ったのでしょうね。でも、ここ1、2年の冬、近くの川で見かけたり、平塚とか伊勢原の田んぼにはいることが確認されました。タゲリ米の田んぼにも、寝ぐらにはしていないですが、餌を取りに来ているようです。作付け面積の減少と比例して、タゲリの飛来も減少していますね」(鈴木さん)

それでは、「湘南タゲリ米」の今後は?
「『湘南タゲリ米』の名前は残りますが、三翠会としての取り扱いは終了。米価格の高騰で、5kg3000円では、かえって一番安い米になってしまいました(笑)。今後は三翠会は販売から退き、お米屋さんが注文を受けて売る形になります。値段も米の相場に合わせ、全国への発送はやめて買いに来られる方のみが対象となります」
令和の米騒動が、意外なところにも影響を及ぼしているようですが、タゲリの田んぼ、これからも続くと聞いてひと安心。自然の生き物が暮らせる地元の環境、大切にしたいものです。
三翠会HP。湘南タゲリ米の販売に関しても、こちら参照
https://www.tagerimai.com
https://www.facebook.com/photo?fbid=1269253128563625&set=a.465586812263598
JAさがみHP
https://ja-sagami.or.jp






